交通事故対策
Traffic accident countermeasures
事故防止に必要な環境整備の研究から採用へ
交通事故はワシやシマフクロウの負傷・死亡原因において大きな割合を占めています。
原因究明により、ほとんどの交通事故が道路や線路の側に放置された他の生物の轢死体に誘引されて路面や線路の側に降りてきてしまうことで、走行する車両や列車との接触や衝突に至っている可能性が大きいことが分かっています。道内で交通事故が顕著に多く、かつ猛禽類において二次的に発生している交通事故と大きく関わるのは個体数が増加傾向にあるエゾシカです。
特に重篤な受傷となり致死率も高い列車事故対策に対しては、餌となるシカなどの轢死体を速やかに通報・撤去するシステムの強化を効果的な対策として検討しています。シカと接触した列車は即時に状況と場所を管理部署に通報し、死体を現場から完全に撤去する等、鉄道会社の協力も得ながら状況の改善に取り組んでいます。しかし、車掌乗務の無い運転手のみによる運行が多い条件下でのシカ死体の移動は、特に積雪時は大変な重労働である事に鑑みて、一時的に轢死体がワシに視認されるのを防止する「覆陰シート」も、事故発生の遅延措置として環境省やJR北海道などと共に開発しました。「覆陰シート」は、自動車事故対策としても使用され、効果を確認中です。

自動車事故への対策
自動車事故には、路面上または路肩の轢死体に誘引されて道路付近に採食のために寄り集まった猛禽類が車両と衝突する二次的な事故に加えて、移動のために道路や橋を横断する際に飛翔高度が路面に対して低くなることによって衝突が発生する事故も挙げられます。
事故防止のためには被害に遭う鳥が危険を回避できるような工夫と、誘引要因(餌)となっている轢死体への迅速な対応が必要です。
路上に降りてしまった個体に対する事故対策としては、路面にスリップ防止用の特殊な溝(グルービング加工)を施工することによって、走行音と震動で個体に車の接近を知らせることができるような対策を取りました。例えば、夜行性の夜行性のフクロウ類では、車のヘッドライトのような強い光が目に入った場合、しばらく瞳孔が収縮した状態となり、逃避すべき暗い方向を視認できなくなりますが、施工した対策により生じる音や振動でいち早く車の接近を認識し、ヘッドライトの光がシマフクロウの目に入る前に危険回避の行動を誘導することが可能になります。また、このような音と振動の発生は、ドライバーへの警鐘としても効果があり、スピードダウンに繋がります。
ワシなどが特定の場所で道路を低空で横断するケースに対しては、車両が走行する高さの横断を防止するための視認性の高いポール(地域によっては旗)を開発・検証し、実際に国道や高速道路で事故対策として採用されています。ポールを道路や橋の脇に一列に設置することで、猛禽類が横断時に自動車の高さよりも高い高度を通過するように誘導し、結果として車との衝突を避ける効果を期待しています。水面と距離のある(桁下高の大きい)橋の欄干に沿って設置する場合は、飛翔ルートを車両が往来する高さよりも上空もしくは橋の下に誘導することができます。
また、猛禽類側に危険回避できるような行動を促すだけでなく、解剖を通してシマフクロウの交通事故の主な誘因要因であると判明しているエゾアカガエルの交通事故を減らし、間接的にシマフクロウの交通事故を防止する方法も考えられます。大量のエゾアカガエルが道路横断する可能性がある場所に関しては、カエルが容易に路上に出現できない対策を講じ、代わりにアンダーパスを設置してそこにカエルを誘導する方法が有効です。
猛禽類医学研究所ではこれら交通事故の防止につながる各種実験や検証を行い、実際に国道や道道で採用されていますが、依然として交通事故は多発しており、引き続き様々な防止対策を考える必要があります。また、運転する私たちもスピードを出し過ぎないなどの注意が必要だと考えています。
