いまだに無くならない、ワシの鉛中毒


 2011年暮れ、道東の浦幌町と鶴居村から衰弱したオオワシとオジロワシが立て続けにセンターに運び込まれました。血液中の鉛濃度を測ったところ、検査機器の計測限界を超えるほどの高い値を示し、重度の鉛中毒症と診断されました。ただちに点滴などで解毒剤を投与しましたが、残念ながら2羽とも翌朝までに死亡してしまいました。死亡したワシの胃からエゾシカの体毛と鉛片が発見されたことから、狩猟で撃たれたシカの死体をワシが食べ、肉などに含まれる鉛ライフル弾の破片を飲み込んで鉛中毒に陥ったと考えられました。 (写真:2011年末に収容された鉛中毒のオオワシ)
鉛中毒が無くならない背景


 現在、北海道ではエゾシカやヒグマを対象とした狩猟で鉛ライフル弾や鉛散弾の使用が禁止されています。鉛弾の規制が開始されてから、すでに12年も経ちますが、いまだに鉛弾を使用しているハンターが存在していることが裏付けられました。北海道で鉛弾の規制が遵守されない背景には、本州以南では鉛による野生動物への大きな実害が報告されておらず、鉛ライフル弾などの使用が禁止されていない現状があります。これらの地域から北海道にシカ撃ちに来るハンターが、鉛弾を持ち込んで使用している可能性も指摘されています。また、たとえ鉛弾を使用しても現行犯以外は取り締ることができない現状も、鉛中毒の発生に歯止めが掛からない大きな要因となっています。
(写真:ハンターによって野外に放置されたシカの射殺体. 2011年12月. 本別町)
ワシがサハリンで
鉛弾を飲み込む可能性は?



 オオワシやオジロワシの多くは、冬鳥としてロシア・サハリン経由で北海道に渡来します。サハリンでワシ類が鉛弾を口にし、北海道で鉛中毒を発症する可能性はどれぐらいあるのでしょうか? サハリン州森林保護自然地域局のズドリコフ部長によると、サハリンのハンター人口は約2万人。5月と、8月末から11月まで、水鳥や小型毛皮獣、クマなどの銃猟が有料で行われているそうです。また、一般的には鉛弾が使用されているものの、サハリンには大型のシカは生息しておらず、野生化したトナカイ(家畜として移入されたもの)が少数見られるものの狩猟は禁止されているとのことでした。さらに、射止めた獲物は通常丸ごと持ち帰られているそうです。
(写真:サハリン北部の先住民族によって飼育されているトナカイ)
より実効性のある対策が必要!


 鉛弾の誤食による野生動物の鉛中毒を根絶するためには、全国規模で鉛弾を規制し、無毒の銅弾などに移行すること以外に根本的な方法は無いと思われます。鉛弾で撃たれたものの致命傷とはならず、逃げ延びた獲物がどこか別の場所で死に、これを食べた他の動物が鉛中毒を引き起こす可能性があるからです。
 鉛弾の規制が遵守されていない現状を打破するためにも、鉛弾をカスミ網などと同様の「特殊猟具」扱いにし、使用のみならず、流通や所持に関しても原則的に規制することが望まれます。さらに、狩猟を目的とした鉛弾の道内への持ち込みを規制し、空港や港湾などで水際の取り締まりを強化することも有意義だと思われます。野生動物の鉛中毒根絶元年が宣言される日が、一日でも早く来ることを心から願っています。
(写真:左2つは鉛ライフル弾、右2つは無毒の銅弾。素人には見分けが付きにくい)