ロシア サハリンでのオオワシ調査


 オオワシは極東ロシアで繁殖し、冬鳥として北海道などに渡来する、世界最大級の猛禽類です。
渡りを行う鳥類の保護には、繁殖地、越冬地、渡りのルートを包括的に保全する必要があります。
猛禽類学研究所では、サハリン(旧樺太)北東部沿岸で、毎年オオワシの繁殖状況調査を行っています。
(写真はオオワシの巣と雛)
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 調査はモスクワ大学の研究者や現地の協力者らと一緒に行っています。オオワシの雛の成長や健康状態を確認後、標識を装着して巣に戻します。長年一緒に調査を行ってきたパートナーとだからこそ、作業を迅速かつ適切に進め、オオワシへのストレスを軽減することができます。
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 巣の上のオオワシの雛2羽です。まだ雛ながらも体を大きく見せようと翼を広げ威嚇しています。
サハリンのオオワシはたいてい2個の卵を産みますが、2羽とも育つことはそう多くなく、1羽も巣立たないこともあります。無事に北海道まで渡って来てくれることを、願わずにはいられません。
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 枯れたグイマツの枝にとまるオオワシのペアです。
尾羽や肩、大腿の純白とオレンジ色のくちばしが青空に映え、威厳とともに目を見張る美しさを醸し出しています。
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 発信機を装着したオオワシにからの電波受信を試みています。冬に日本で追跡していたオオワシを、夏にロシアで再び確認できると、地球規模の渡りをしながら厳しい自然の中で生きている、彼らの壮大なライフスタイルに大きな感動を覚えます。
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 オオワシはグイマツの頂上に枝を組み、大きな巣を作ります。写真の木の表面にはヒグマがよじ登った時にできた爪痕が残されています。この巣は一部が壊され、雛もいませんでした。大規模な石油天然ガス開発が、加速度的に進み始めた2003年頃から、このような被害が目立つようになっています。サハリン北東部では、クマの食環境にも何らかの異変が起こっている可能性があります。
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 街では、道端で木イチゴやキノコなどを売っています。写真中央の黒い粒々はヒマワリの種を炒ったもので、庶民お気に入りのおやつです。片言のロシア語と身振り手振りで買い求めますが、みんな親切にしてくれます。
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 調査地近くの村には小さな雑貨屋があり、ウォッカや缶詰、生鮮食品、衣類雑貨など小規模ながら色々と置かれています。調査は野外生活なので、たくさん食料品を買い込んでから出かけます。
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 サハリン北東部に存在する湖沼の多くは、海と繋がっている潟湖です。潮の干満による影響を強く受け、干潮時には広大な干潟が姿を現します。浅瀬はオオワシ達の格好の餌場となっており、湖から河川に向かって遡上するカラフトマスなどを捕食しています。
干潟を生活の場にしているのはオオワシばかりではありません。日本に渡来する多くのシギやチドリなども、この干潟を渡りの中継地としています。写真の場所では、オオソリハシシギを中心とする、約5000羽ものシギ・チドリ類が観察されました。
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 大きな翼を半開きにし、霧雨に濡れた身体を乾かすオオワシの成鳥。
北サハリンのオオワシ達は、豊富な餌に恵まれているせいか、少しリラックスした表情を見せるときがあります。
これから始まる長距離の渡りや、厳しい越冬環境を見据えて、心身ともに準備をしているのでしょうか。
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サハリンでのオオワシ調査は、寒さや暑さ、大量の蚊やヒグマへの対策など、体力面・精神面でとても厳しいものです。過酷なテント生活の中で、ひと時の安らぎを与えてくれるのは、美しい北方圏の夕暮れ。
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 サハリンの夕焼けは、やさしいパステルカラーのグラデーションとして描かれる時もあれば、燃え盛る情熱的な炎のように、激しく大空を焦がす時もあります。
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 三角点(測量のための基準点)のやぐらに作られたオオワシの巣(中段)と成鳥(頂上)。
時には人間の工作物を生活に取り入れ、有効に活用することもありますが、オオワシの聖域に人間が入り込んだことによる"共存の例"は非常にまれです。
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 石油天然ガス開発の海上リグ(油井)の隣に広がる、広大な干潟で採餌するオオワシ。油流出事故などで、野生動物の重要な生活の場を一瞬に破壊してしまう可能性があります。目下のリスク対策はもちろん、この場所での開発の是非を、計画段階から十分に検討することが重要です。
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 サハリンでのオオワシの調査は、ワシの繁殖活動に影響を与えないよう、細心の注意が必要です。警戒心の強いペアの生息圏内では、迷彩服を着用することもあります。
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 過去に発信機を装着したワシ達が、無事繁殖地に戻ってきているかどうかを調べるため、見渡しの良い湿原で電波探査を行っています。このときも人間の存在を必要以上に野生動物に知らしめ、行動を撹乱しないために、自然に溶け込む服装を心がけています。
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 サハリンの残る豊かな自然は、多くの野生動植物を育んでいます。時には私達を悩ませる蚊の大群も、その象徴なのかも知れません。夕方になると竜巻のように巨大な蚊柱がいくつも立ち並び、うなり声のような蚊の羽音が聞き取れる事もあります。
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 最も神経を尖らせるのはヒグマの存在。むやみに刺激したり、残飯の不始末などでテント場に誘引しないため、調査中は数々のルールを守る必要があります。