モンゴル調査

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フィールドワーク・野外調査

急成長を見せる首都

2010年夏、OIE(国際獣医事務局)によって行われる鳥インフルエンザの調査に参加するため、2009年に引き続き、再びモンゴルを訪れました。首都ウランバートルはわずか1年ながら、高層ビルがいくつも建立し、車の数も増え、道路は常に大渋滞です。急激な経済発展を遂げる一方、物価の高騰や貧富の差の広がりの問題を垣間見ることもありました。

西へ!

都会の喧騒を離れ、フィールドへ出ました。360度の地平線と果てしなく高い空は、これまでと変わるものなく、ほっとしました。 2009年はモンゴル東部を調査しましたが、今回は西部を調査することになりました。

ヤチボウズ!?

釧路湿原には、ヤチボウズ(谷地坊主)とよばれる湿地帯に見られる植物の塊が有名ですが…モンゴルでも似たような隆起した植物群を見かけました。モンゴルも冬には雪が多く、マイナス30℃以上にもなるそうです。こうした凍結と融解の繰り返しで作られた光景なのかもしれません。みんなで失礼して、ぴょんぴょんと頭を渡らせてもらいました。中には時々バランスを崩して落ちる人もいましたが…

山々を越えて

ウランバートルを出てからしばらくは草原が続いていましたが、更に西へ進むと山岳地帯に入りました。標高1300~1500mが続く道を車で移動していきます。道路はあるようなないような状況。。。当然、町や場所を示す看板も設置されていないので、時々点在するゲルを訪れては道を尋ねました。それでも目的地まで行けてしまうモンゴル人の方向感覚に脱帽です。

草原ホテルへいらっしゃいませ

今回の調査でも、基本的に草原ホテル(自前テント)での宿泊でした。ゲルで暮らす人々の邪魔にならないよう設営しますが、放牧されている牛や馬達は好奇心旺盛です。ちょっと油断すると囲まれてしまい、テントの臭いを嗅ぎ来る度、追い払わねばなりません…夜、テントで寝ていて、すぐ近くで馬の鼻息や足音がすると、踏まれやしないかちょっとドキドキします。

食事作り

キャンプ中の食事は基本的に自炊です。今年もヒツジを1頭買いました。調理を担当するジャガさん(写真右)は長い調査で皆が飽きることのないよう、様々な郷土料理を作ってくれます。私もせっかくの機会ですからモンゴル料理を教わるべく、ちょっとだけお手伝いしました。

ホーショルの出来上がり!

モンゴルの定番料理、ホーショルが出来あがりました。小麦粉で練った皮にヒツジ肉と刻んだキャベツやニンジンを入れて包み込み、油で揚げて出来上がり!日本で言うなれば揚げ餃子です。私が作ったのはどうしても不格好になってしまいましたが…揚げたてはとても美味しかったです。

ハクチョウとの知恵比べ

今回の調査も水鳥や湿地帯に生息する小鳥を捕獲して、鳥インフルエンザウイルスの保有状況を調べることが目的です。また渡りを調べるためハクチョウ、カモ類を捕獲して衛星発信機を装着します。とはいっても、今回、私達にはボートのエンジンも無く、人力と知恵のみが頼りです。水路や隠れ場所となりそうな場所などの地形を読み、追いこむ作戦を練ります。

捕獲成功の陰の努力

無事にオオハクチョウを捕獲できました!ちなみにあくまでも鳥に対しての「無事」が最優先され、人がボートを漕いで漕いで腕が上がらなくなっても、また漕がされ、胴付き腰まである長靴をはいて水辺に隠れる途中、深みにはまって胸まで沈んでも、突入を指示され…命に係ることがない限り、捕獲作戦は続行されます。今回、私も2回、胴付きが完全沈没しました。

素早く作業を

捕獲したオオハクチョウに足環や発信機を装着し、口腔や総排泄孔のぬぐい液を採取するサンプリングを行います。広い草原の中には日を遮る木陰などがほとんどないため、車の陰を利用して作業を行いました。鳥の体温上昇を防ぐための配慮です。また過度に興奮するとストレスがかかり、高体温症になるため、目隠しをしつつ手早く作業を行います。

ラブリーフェイス

アカツクシガモの雛を接写してみました!まだあどけなさの残る、なんとも可愛い顔に癒されます。今回、衛星発信機はオオハクチョウ用10羽、カモ類用5羽分が用意され、全て装着することができました。さすがに雛には負担が大きいので、成鳥を選んで装着しました。彼らが日本を含め、国々をどのように旅をするのか、とても興味深く結果が楽しみです。

雨の境目

モンゴル西部は山に囲まれた地形のためか、スコールのような突然の激しい雨に見舞われることが度々ありました。地平線を望む遥か向こう側から、カーテンのような雨の境目が近づいてくるのを見ることもありました。今回、一度だけ、いざ捕獲を始めようとした途端に積乱雲が上空に来て、突風と豪雨に見舞われ、ボートが宙に舞いながら空を飛んで行ってしまったことがありました。幸い誰も怪我をせず、ボートも回収できたのですが、意気消沈してテント場へもどると、半分近くのテントが潰れていて…自然の脅威をまざまざと感じさせられました。

雨の後には虹が

雨の降り出しは突然ですが、あっという間に通り過ぎていきます。乾燥した草原を潤し、空には虹がかかり、雨の間ひたすら耐えていた気分を一転、晴れやかにしてくれます。うっすらですが、2重にかかっているのがわかりますか?

オレンジ色の空に舞うアネハヅルを見て

とにかく視界が広いためか、快晴や雨、朝焼けや夕焼け、そして星空まで、モンゴルの大自然が織りなす様々な景色は、どれも息を飲む壮大さを感じます。遠い昔から繰り返される命の営みの流れの中で、自分はほんの一瞬であっても、こうした景色をきちんと後世に残せるようにしなくては、とちょっぴり感傷的な気分になったある日の夕焼けでした。

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