モンゴルの大草原

執筆:渡辺有希子

フィールドワーク・野外調査

大草原!

果てしなく広がる大草原…モンゴルへ行ってきました。ベトナムに引き続き、OIE(国際獣医事務局)によって行われた鳥インフルエンザの調査です。
野鳥を捕獲し、安全かつ適切にサンプルを採取すること、そして今回はオオハクチョウを捕獲し衛星発信機を装着することが目的です。

どこを走っていても、草原の真ん中?!

モンゴルですから、移動は馬で…と行きたいところですが、今回の目的の一つ「オオハクチョウがたくさんいる湖」はモンゴルの北東部にあるそうです。首都ウランバートルから目的の湖までは、約700km!首都を離れるとまもなく舗装道路も無くなり、まさに延々と広がる草原の中を車でひた走りました。途中で調査に適した場所を探しながらの移動でしたが、最終目的地まで車で3日もかかりました…

草原ホテル

調査中の宿泊は、ほとんどテントでした。突然雨が降り出すこともあれば、日が照れば遮るものが何もないので、じりじりと暑く、そしてなんといっても無数の蚊。…そんな生活でも、果てしなく広がる視野に心が洗われ、人のちっぽけさを実感するのです。

お肉は1頭単位で買うもの?

捕獲やサンプリング調査のために、日本より6名、モンゴルより6名が参加しました。調査用の荷物もたくさんあり、食糧や飲料水も含めるとその量は莫大です。途中に点在する村に寄っては食材を買い足しながらの旅でしたが、ある日ヒツジとヤギどちらが食べたい?と聞かれ、答えた結果・・・1頭分のヒツジ肉が荷物に加わっていました。骨付きの塩ゆで肉はまさに絶品でしたが、モンゴルの人達は脂の塊はもちろん、骨の髄まできれいに食べます。

サンプリング

あれこれと試行錯誤をしながら、目標としていたオオハクチョウの捕獲にも成功し、100羽以上の鳥からサンプル採取ができました。鳥インフルエンザの検査はモンゴルと日本の獣医当局が共同で分析を進める予定です。今回、衛星発信機が装着されたオオハクチョウがどのような渡りをするのか、非常に興味深いものです。

アイラブユー!

巣立ち直後のオオノスリの幼鳥が捕獲されました。ソノウ(食道にある袋)の中には、何らかの肉がたくさん入っていました。猛禽類を手にするとやはり心躍り、ついつい嬉しくなってしまいます。猛禽類のように空を舞い、風をつかまえ、この草原を上空から見ることができたらいいのに・・・
日本から遠く離れた場所でも脈々と息づく命に、いつもながら深い感銘を受けるのです。 (渡辺有希子)

ここもモンゴル?

ゲルに住む子供達は働き者です。燃料として利用するため家畜の糞を袋一杯拾い集めていました。
さて、写真の中で何か気付きましたか?
そうです、草原の中にも電柱があるのです。

連なる柱の上には

ゲルに暮らす人々は電気・ガス・水道といった設備に無縁ですが…モンゴルでも電気の整備が進んでいるそうです。村から村へと繋がる電線が何百キロも敷設されています。手前から2本目の電柱の上に、何かがいます!

電柱の上に止まるオオノスリ

猛禽類は高いところへ止まる習性があり、草原の中に立つ電柱は頻繁に利用されています。鳥もまさか危険な場所だとは認識せずに止まってしまうのでしょう。

碍子(がいし)の部分に止まるセーカーハヤブサ

現地の研究者によると調査中に感電死した鳥を頻繁に拾うそうです。被害に遭っている鳥の数は測り知れません。

電柱に作られたセーカーハヤブサの巣

巣自体は感電するリスクが低い場所に架けられていますが、そこから巣立つ子供達が電気設備に対して警戒心がなくなり、将来同じような環境を繁殖場所として選んでしまわないか心配です。

電柱に作られたオオノスリの巣

今の時代、電気の利便性を否定することはできません。しかし今まで感電事故で失われる多くの鳥達を目にしてきたからこそ、モンゴルのような素晴らしい自然環境に作られる電気設備は、より安全なものであって欲しいと願うのです。

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