雛の健康診断

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フィールドワーク・野外調査

体温測定

毎年5月中旬頃になると、環境省によるシマフクロウ保護増殖事業の一環として、雛の標識調査が始まります。道内各所の営巣地を回って雛の健康状態をチェックし、個体識別のための足環を付ける作業です。  巣立った雛達はいずれ親元を離れ、自分で生きていかなくてはなりません。希少種を適切に保護管理するためには、一羽一羽の動向を調べる必要があるのです。

聴診

雛にストレスを与えず、できるだけ早く親元に返すため、専門家たちが役割分担して素早く安全に作業を進めます。時には、山奥の生息地まで長時間汗だくで歩いた後の作業となり、蚊やブユ、ダニにもたくさん刺されます…  健康診断は、視診や聴診、体温測定などの身体検査から始まります。

血液採取

より詳しく健康状態や栄養状況を把握するため、少しだけ血液を採取してセンターに持ち帰り、様々な分析を行います。シマフクロウの雛は、見た目だけでは雌雄がわからないので、血液からDNAを取り出して性別判定を行っています。

巣に戻します

日本で約130羽しか生息していないシマフクロウ。森林や河川の環境悪化、車両衝突や感電事故などが多発している現状に対し、自分は何を出来るのか…雛を前にして改めて考えさせられます。  次世代を担う雛達が1羽でも多く無事に成長してくれることを願っています。

雛にも個性が

全道を回り、各地で同じ年頃のシマフクロウを診察していると、それぞれに顔つきや性格の違いがあることがわかります。通常、雛は親鳥とは比べものにならないほど大人しく、診察にも協力的です。  動物の反応やちょっとした仕草から、健康状態を読み取ることはとても大切ですが、雛の場合は日齢や生息環境によって外見や行動が大きく異なることもあり、長年の診療経験が必要とされます。

初めての受難

写真一番上の雛に比べ、上の雛はどことなく眼差しが違っているように見えませんか? 実はこの雛、この時期大量に発生しているブユや蚊に刺され、両まぶたがひどく腫れ上がってしまっているのです。しばらくすると自然に治ってしまうのですが、狭い巣穴の中は逃げ場もなく、最初の受難を経験してしまいました。吸血昆虫は寄生虫などを媒介することもあります。研究室では、持ち帰った血液などを使って、野生のシマフクロウの病気や罹患状況をモニタリングし、予防や治療につながるデータを収集しています。

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