シマフクロウ

Blakiston's fish owl

シマフクロウ親善大使「ちび」

ほかのヒナよりも体が小さかったことから、通称として呼んでいた「ちび」。その呼び名はそのまま名前となりましたが、彼が残した功績はとても大きく、多くの人に愛されながら、シマフクロウの魅力を伝えてきました。

2019年9月4日、ちびは空へ旅立ちました。ここでは、シマフクロウと人とをつなぐ親善大使として活躍したちびの軌跡を紹介します。

「ちびに見られた異常」

ちびは2011年4月、北海道・十勝の森で生まれました。毎春、猛禽類医学研究所の獣医師は環境省と協力し、巣立ちの時期にシマフクロウのヒナに個体識別用の足環を装着し、健康診断を行っています。

初めてちびと対面したとき、体重がわずか1360gしかなく(巣立ち期の平均体重は1800〜2000g)、その軽さと小ささに驚きました。

「できるだけ親と一緒に育ってほしい」と見守っていましたが、巣立ちの日齢を過ぎても飛び立てず、さらに体重が減少し衰弱が見られたため、緊急保護となりました。

その後の検査で、右翼が短い、右目が小さい、尾羽の枚数が10枚(通常は12枚)などの身体的な異常が確認されました。さらにストレスや強い刺激が加わると頭を上下に反転させてしまう神経性の発作があることもわかりました。これらは先天的な異常の可能性が高く、協議の結果、野生復帰は難しいと判断され、環境省釧路湿原野生生物保護センターでの終生飼育が決まりました。

発作を軽減するため、特定の人に慣れてもらう訓練を行った結果、ちびは鋭い爪で傷つけることなく腕に乗り、検査のために触れる手を噛むことも逃げることもなく、私たちと共に生きる道を選んでくれました。

「ちびの活躍」

シマフクロウは生息数が少なく、夜行性であるため、野外での観察が非常に難しい鳥です。なにより野生個体への過度な干渉は、その生息そのものを脅かしかねません。けれどあまりに遠い存在であると、絶滅の危機に瀕している現状も、保全の必要性もなかなか伝わりません。

そこで、ちびにシマフクロウを知ってもらうための親善大使の役割をお願いすることにしました。シマフクロウの大きさ、愛らしさ、凜々しさ、ふわふわの羽-その姿に触れた人たちは、時にその鋭いまなざしや迫力に驚きながらも、実際に見て、触れて、心を惹かれていきました。ちびは、そんな不思議な魅力をたたえたシマフクロウでした。

ちびとの出会いが、シマフクロウが生きるために必要な豊かな森や、魚やカエルなど多様な生きものが暮らす環境の大切さを知るきっかけになるかもしれない―そんな願いを込めて、ちびと共に北海道内の学校やイベントなど、さまざまな場所に出向き、シマフクロウのこと、そして森や川、生きもののつながりの大切さを発信し続けました。

2019年9月、ちびは静かに旅立ちました。しかしちびが出会った人たちに残したぬくもりと学びは、今も確かに息づいています。ちびは今、釧路湿原野生生物保護センターに展示されています。願いは今も変わりません。シマフクロウのことも正しく知ってもらい、共に生きる道を見出したい―ちびの仲間を守るために。

収容されたばかりのちび

羽を広げるちび。飛ぶこともできる

シマフクロウ親善大使として環境教育の場で 活躍中のちび

テレビの生放送にも出演