鉛による障害

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保護した鳥(猛禽類)

今年もまた・・・

 4月下旬、北海道も遅い春を迎え、ほとんどのオオワシ達は繁殖地を目指して北へ向かったはずです。そんな中、十勝地方の本別町で1羽のオオワシの成鳥が保護されました。道路の脇に立ち尽くしたまま、2日間も状態が変わらなかったことから、発見者は異常を感じたとのことでした。センターに運び、血液検査を行ったところ、重度の貧血と栄養不良、そして重度の鉛中毒症であることが判明しました。

鉛による障害

 オオワシはかろうじて起立しているものの、足指が正常の姿勢を保てず、麻痺しているようです。身体に取り込まれた鉛は、赤血球の寿命を短縮するとともに、新しい血液の産生をも阻害してしまうことから、重度の貧血に陥っていました。呼吸が苦しそうなため、直ちにICUの中に収容し、酸素を供給します。しばらく餌を食べることができなかったらしく、とても痩せていました。

治療を施すも・・・

 入院1日目は、魚肉を少しだけ口にすることができましたが、状態は悪化する一方。鉛中毒の治療薬を点滴で投与し続けますが、あまりにも大量の鉛が体内に取り込まれているため、解毒作用が間に合いません。重度の循環器不全のため、呼吸器系に水がたまり、ついに立てなくなってしまいました…苦しそうな姿に胸が痛みます。
そして、収容して2日目の真夜中・・・オオワシはとうとう力尽きてしまいました。

失われた命が教えてくれるもの

 解剖の結果、メスであったことが判明しました。本来であれば、サハリンなどで巣作りを開始している頃。もうすぐ新たな命が産まれるはずだったでしょう。
鉛中毒の原因は、狩猟後に山野に放置されたシカの死体を食べ、肉などに含まれる鉛弾を摂取したことによると思われます。北海道では10年以上も前から鉛弾の使用が禁止されています。それにもかかわらず・・・このワシが自らの命と引き替えに私達に伝えてくれたメッセージを聞き逃してはなりません!

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